近年、外国人スタッフの受け入れを進める医療機関が増えています。しかし「申し送りが正確に伝わらない」「患者さん、利用者さんの対応に不安がある」「日本人スタッフのフォロー負担が増えている」といった課題を抱えているケースも多いのではないでしょうか。
そこで求められているのが、医療現場向けの専門日本語教育です。日本語教育を導入すると、現場にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
本記事では、医療現場で日本語教育が必要とされる背景や、外国人スタッフの日本語能力にまつわる課題、具体的な研修内容、導入するメリットやポイントなどを分かりやすくまとめました。外国人スタッフの日本語教育に課題を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
この記事で分かること
- 医療・介護現場で日本語教育が必要とされる背景
- 外国人医療スタッフの日本語能力にまつわる課題とリスク
- 医療現場が取り入れたい日本語研修の具体的な内容
医療・介護現場における外国人スタッフの受け入れ状況
厚生労働省が実施した「令和5年度医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」によると、回答した5,184病院のうち、54.3%が外国人の患者さんを受け入れていることが分かりました(※)。
外国人の患者さんが増えるなかで課題となるのが、言葉や文化の違いによるコミュニケーションです。その解決策の一つとして、外国人医療スタッフへの需要が高まっています。
またEPA(経済連携協定)に基づく制度では、ベトナム、フィリピン、インドネシアの3国から看護師や介護福祉士の候補者も受け入れています。こちらは国家資格取得へのハードルが高いため、来日する候補者は、母国で看護大学や既に病院、介護施設での経験がある人材で価値が高く、優秀な人材が多い傾向にあります。このような受入れルートも含め、人材不足の課題を抱える医療機関が多い今、外国人スタッフの受け入れは今後重要な選択肢の一つになるでしょう。
医療現場で日本語教育が必要とされる背景
医療現場で外国人スタッフが安心して働ける環境を構築するには、日本語教育が欠かせません。ここからは、その必要性が高まっている背景について見ていきましょう。
安全の確保とヒヤリハットの防止
患者さんの安全を守り、現場でのヒヤリハットを未然に防ぐこと。それが、医療現場で日本語教育が必要とされている大きな理由です。
医療現場では、ちょっとした認識のズレや伝達ミスが患者さんの安全に大きな影響を及ぼす恐れがあります。また適切に治療を進めるには、スタッフ間で正確に情報共有を行い、患者さんに薬の服用方法や治療方針などを分かりやすく説明することが重要です。
外国人スタッフの日本語力が十分でなければ、スタッフ同士の情報共有も、患者さんへの説明もスムーズに行えず、ヒヤリハットの発生につながるリスクがあります。
こういった事態を防ぐために、医療現場での専門的な日本語教育が必要だと言われているのです。
患者さんやご家族との円滑なコミュニケーション
患者さんやご家族と、スムーズにコミュニケーションを取ることは、医療機関への信頼の向上につながるでしょう。また患者さんが前向きに治療を受ける上でも重要です。
外国人スタッフとのコミュニケーションがうまく取れないと、患者さんもご家族も不安を感じてしまいます。不安が解消されないままでは、治療に前向きに取り組めなくなってしまうかもしれません。
そのため、外国人スタッフには、相手の状況や気持ちに配慮しながら、必要な情報を適切に伝えられる日本語力が求められます。
多様な専門用語や地域特有の方言への対応
医療現場で働くためには、専門用語の理解は必須です。また、地域特有の方言の理解も必要になってくるでしょう。
スタッフ間のやり取りでは、日常会話では使わない専門用語が多く用いられます。申し送りやカルテ・看護記録の記入などでは、VS(バイタルサイン)などの略語が使用されることも多いです。円滑に業務を行うためには、こういった専門用語が理解できなければなりません。
地域によっては、方言を理解しなければ、スタッフや患者さんの意図をつかめないこともあります。特に高齢の患者さんの場合、日本語を母語とする人でも聞き取りが難しいほど、方言が強く出るケースもあるでしょう。
日常会話レベルの日本語力は身についていても、専門用語や方言への理解不足があれば、対応が難しくなることがあります。そのため、実際の現場で使われる言葉を学べる日本語教育が求められているのです。
外国人医療スタッフの日本語能力にまつわる現場の課題とリスク
外国人スタッフの日本語能力が十分ではないと、現場ではどのような課題が生まれるのでしょうか。よくある課題と放置した場合のリスクを解説します。
「患者さんの真意」を汲み取る難易度が高い
外国人スタッフが現場でぶつかりやすい課題の一つに「患者さんの真意を汲み取ることが難しい」というものがあります。
例えば日本語の意味を理解していたとしても、細かなニュアンスが理解できていなければ、患者さんの言葉を文字通りに受け取ってしまいがちです。その結果、真意を読み取れず、患者さんが求めているのとは異なる対応を取ってしまうこともあるでしょう。
口頭での申し送りの難しさ・カルテ記録の業務負担
日本語を理解できるといっても、日本人ネイティブと同等のレベルでの理解を求めるのは難しいでしょう。申し送りのスピードが速過ぎると、聞き漏らしや認識ミスが起きやすくなります。
またカルテの記録に時間がかかったり、自力での記録が難しかったりする場合もあるでしょう。日本人スタッフがサポートする必要があれば、周囲の業務負担が増えてしまうこともあります。
現場の業務効率の低下
日本人スタッフが外国人スタッフをフォローする必要があることにより、現場全体の業務効率が下がってしまうケースも多いです。
前述したカルテの記入のように、外国人スタッフが理解できないことや判断に迷うことがあれば、その都度日本人スタッフがフォローを行う必要があります。
日本人スタッフの業務負担が増大すると、モチベーションが低下し、離職につながる恐れもあります。
医療現場が取り入れるべき日本語研修の具体的な内容
外国人スタッフに円滑に業務を回してもらうには日本語研修が欠かせません。ここからは、医療現場で取り入れたい研修内容の一例をご紹介します。
医療従事者向けの専門用語と現場表現の習得
医療現場では、医療従事者向けの専門用語と現場でよく使われる表現を学べる研修が必要不可欠です。
スタッフ間で使用する専門用語はもちろん、患者さんが使う表現も含めて理解できるようになる必要があります。例えば「安静にしてください」「様子を見ましょう」など、医療現場でよく耳にする表現は、理解し、運用できるようになるといいでしょう。
こういった表現を日本語研修で学ぶことで、スタッフとも、患者さんやご家族とも、円滑なコミュニケーションが取りやすくなります。
ロールプレイを通じた会話練習と現場対応力の強化
研修で、会話を通した学習や実践に即したロールプレイなどを行うことで、対応力を高めることが可能です。
日本語をある程度理解していても、実際に話したり日本語で業務をしたりすることに慣れていなければ、能力を生かしきれないことがあります。現場でよくある状況を踏まえた会話練習や、OJT形式での学習を取り入れることで、実際の現場で生かせる日本語を効率良く身につけられるでしょう。
翻訳ツールや多言語マニュアルを併用した指導体制
翻訳ツールや多言語マニュアルも、外国人スタッフとのコミュニケーションを取るのに有効な手段です。
日本語を上達させるためには、一定期間が必要となります。翻訳ツールや多言語マニュアルを併用すれば、十分な日本語力が身についていない段階でも、業務への影響をできる限り減らすことができるでしょう。
日本語研修を導入する3つのメリット
続いて、医療機関が日本語研修を導入することで得られる3つのメリットを見ていきましょう。
医療事故リスクの低減
日本語研修を導入し、外国人スタッフの日本語力が向上すれば、医療事故のリスクを抑えやすくなります。
もちろん、医療事故は言語の壁だけが原因ではありません。しかし日本語の理解不足による認識ミスや伝達ミスから重大な事故が起こる可能性は十分に考えられます。
外国人スタッフに適切な日本語教育の機会を提供し、指示や説明が正しく理解できるようになれば、日本語の理解不足で発生するミスを減らすことができるでしょう。
現場全体の業務効率向上
外国人スタッフが日本語をスムーズに理解できるようになれば、日本人スタッフと同じように戦力として活躍してもらえます。また日本人スタッフがフォローに入る頻度が減れば、本来の業務に専念しやすくなり、効率良く働けるようになります。外国人スタッフと日本人スタッフの連携も円滑になるでしょう。
スタッフの定着率改善
EPA(経済連携協定)で看護師・介護士として来日する外国人看護・介護人材は、病院で働きながら、日本人と同じ条件で国家試験の合格を目指します。しかし、働きながら、決められた期間内での試験合格を目指すのは簡単なことではありません。国家資格取得までの道のりには様々な障壁があり、帰国を選ぶ人も少なくありません。
日本語研修を実施することで、試験対策や日常業務への理解も深まるでしょう。その結果、長期的に活躍できる人材として定着してもらえる可能性も高いです。
また外国人スタッフの中には、日本語が十分に話せないことで本来の能力を発揮できなかったり、職場になじめなかったりして、離職を選ぶ人も少なくありません。日本語研修を通じて言葉の壁を軽減することは、離職を防ぐことにもつながります。
医療現場に日本語教育を導入する際のポイント
最後に、医療現場に日本語教育を導入する上で、押さえておきたい3つのポイントを解説します。
実際の日本語レベルに応じたカリキュラム設計
医療現場に日本語教育を導入する際は、外国人スタッフの日本語レベルに応じたカリキュラム設計が必要です。
カリキュラム内容は、実際のレベルより低すぎても高すぎても、日本語力を効率良く伸ばすことはできません。対象者一人ひとりのレベルを把握し、それに応じた内容のカリキュラムを準備することが大切です。
今の日本語レベルと現場で求められる日本語レベルを把握すれば、どういった表現やスキルを優先して学ぶべきかも明確になります。また目標達成までにどの程度の期間が必要なのかも、把握しやすくなるでしょう。
職場の実情に合わせた研修内容のカスタマイズ
日本語研修を導入する際は、現場に合った研修内容にカスタマイズすることも大切です。
前述の通り、医療現場では専門用語や特有の表現などへの理解が必要になることもあります。日常会話が上手でも、現場で使う日本語が理解できなければ業務を適切に行うことは難しくなります。
外国人スタッフが配置される現場ごとに、どのような日本語が必要なのかを洗い出し、業務ですぐに生かせる内容のカリキュラムにカスタマイズすることが大切です。
継続的な運用体制の構築
継続的な運用体制を構築することも、日本語研修を導入する際のポイントです。
語学はすぐに習得できるものではありません。中長期的に学習を継続できるような運用体制を作ることが、人材育成の鍵となります。
研修を実施したら、外国人スタッフや現場からのフィードバックをもらい、それを参考に内容を改善することも大切です。実際に現場でどんな表現に困っているのか、理解が難しい場面を把握することで、より現場に合った研修に近づくでしょう。
個々の学習の進捗を管理しつつ、必要に応じたフォローの実施も検討すると良いでしょう。継続的に見直しながら運用すれば、より現場に即した日本語力の習得につながります。
まとめ
今後、病院や介護施設の現場では、外国人スタッフの受け入れがさらに進んでいく可能性があります。
しかし患者さんの安全を預かる医療機関では、日本語の理解不足による課題が生じる可能性があるのも事実です。課題を放置すれば、医療事故リスクが高まり、業務効率が低下する恐れもあります。
こうした課題を解決するには、外国人スタッフの日本語レベルや配置先の業務内容に合わせた日本語研修を行うことが欠かせません。医療現場特有の専門用語や表現、現場の状況に応じた実践的な内容をカリキュラムに取り入れれば、現場で生かせる日本語力を身につけやすくなります。
日本語研修を継続的に実施し、外国人スタッフが安心して働ける環境を整えることは、医療事故リスクの低減や業務効率の向上、スタッフの定着率改善にも役立ちます。現場に合った研修体制を整え、スタッフも患者さんも安心できる環境づくりに取り組みましょう。
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